練馬駐屯地にて, 2024(令和6)年1月19日付, 入札日を1月30日とする「配管保護装置」の調達公告があり, その内容が調達として極めて不適切であるとしてSNSで話題になりました.
というのも, 調達の対象が科学的根拠を欠く効能を謳う装置であり, 事実上一社のみを対象とする調達というものでした.
その後, 騒ぎが広がり国会議員が出てきたことで調達は取消となりましたが, 明らかに問題のある調達であったことにかわりなく, 原因究明のため防衛省に対し情報開示請求をかけることにしました.
その対象は,
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・履行場所を陸上自衛隊練馬駐屯地とする338会公告第223号の調達に関する文書であって,
①前記調達の仕様書中, 役務概要として表示された「NMR工法」を採用する契機となった, 事業者との面談記録
②338会公告第231号にて, 338会公告第223号の調達を取り消すこととした経緯を示す文書
③前記調達において, その仕様書中役務内容・細部欄(1)項に「5℃~20℃の水に対し(中略)黒体放射により供給可能な製品」の条件を指定した根拠もしくは経緯を示す文書
④同項において, 配管清掃役務の調達に代えて, 「配管保護装置」と称する製品の調達を行うこととした根拠もしくは経緯を示す文書
⑤同(3)項の水質検査について, 設置後の水質検査のみで足りることとした根拠もしくは経緯を示す文書
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としました.
上記請求に対し, 防衛省は,
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開示決定等に係る事務処理及び調整に時間を要するため。
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として標準処理期間を超過する開示決定期限を新たに2024年3月26日と設定しました.
その後3月26日には, 開示決定が発出され, 翌27日には開示範囲を示す書面を受領することができました. 開示範囲はおおむね請求通りですが, 一部は黒塗りとなっています.
以下に開示された全資料とその概要を示します.
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2024.1.25-本本B2208↓
(同様の資料が複数あるため省略, 実名は当方にて黒塗り処理を実施)
・日本システム企画株式会社の担当者は, 「挨拶」と称して①2023年5月26日, ②2023年10月25日, ③2023年12月18日の三度にわたり防衛省の担当官(O一尉)を訪問していること(事実).
・短期間に3度も挨拶をする必要がないことは明らかであること(評価).
・日本システム企画株式会社の担当者は, ①2023年6月7日, ②2023年7月20日(来訪者は3名とみられる), ③2023年8月22日(来訪者は2名とみられる), ④2023年10月13日, ⑤2023年月日(来訪者は3名とみられる), いずれも業務隊管理課のY技官への面会を申請したものの, 実際の被面会者はS氏(階級不明)らであったこと(事実).
・その後, ⑥2023年12月14日の訪問では, 引き続きY技官への面会を申請しているが, 実際にはO技官が応対していること(O技官とO一尉は全くの別人である)(事実).
2024.1.25-本本B2209↓
(印影について当方にて可読性を落とす処理を実施)
・調達要求取下げの理由は「配管の赤さびによる詰まりを改善する...(略)目的を達成するために何が適切なのかという観点(略)」であること(事実).
・当初調達の目的達成が不可能であり, 業者の謳う効能を期待することが難しいという表現である(評価).
2024.1.25-本本B2210↓
(業者から防衛省に提供されたカタログ「配管内の赤錆防止装置 NMRパイプテクター」)
・「ぬめりの原因となる雑菌を解消」「水と直接接触しない」「赤錆を黒錆に還元」「ランニングコスト0円・メンテナンスコスト0円」「空調管(SGP管)内の赤サビを黒サビ化」「給水管(SGP管)内の赤水解消」などの表現があること(事実).
・「特定の電磁波が...(業者主張略)...赤錆を黒錆にする」旨の表現があること(事実).
・SGP管とは主にガスや水道, 冷媒輸送に使われる肉厚の炭素鋼管で, 磁力線を遮断し, 電波は透過しないこと(科学的事実).
・したがって, そもそも本カタログで業者が主張する動作原理と効能は矛盾する(評価).
・ランニングコストとメンテナンスいずれも0円となっており(事実), 電力や燃料を消費する装置ではないこと(評価).
・かつて業者が「黒体放射により核磁気共鳴のためのエネルギーを供給する」旨主張していたとの情報がインターネット上にて確認できたが(元情報未確認), 配管内の赤錆を数カ月で黒錆に還元するようなエネルギーを与えることが不可能であること(科学的事実).
・そもそも黒体放射により輻射される赤外線を利用する場合, 黒錆→赤錆の反応のエネルギー勾配を超えるエネルギーが要求されるのだから(科学的事実), これをエネルギーロスのある経路で供給するというのは不合理であること(評価).
2024.1.25-本本B2211↓
・防衛省は, 業者の提供した本カタログの主張する数値や効能をもとに調達判断を行ったこと(事実).
2024.1.25-本本B2212↓
(既に掲載済みのカタログのみであり省略)
■業者側の不適切な宣伝手法も極めて悪質であるものの, 防衛省側も技官の関与がありながらこのような製品の調達に着手してしまうなど, 「義務教育の敗北」というべきとこともあり, 調達監視体制の強化がのぞまれる.
■自衛官の採用試験は極めて簡易なものであり, 義務教育程度の知識がなくとも入隊することは容易であるが, それでも現下の国際情勢のもと偽情報への耐性という観点から, このような事象が発生したことは遺憾である.
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