2024年6月17日月曜日

青春18きっぷ廃止への道と公共交通機関のコスト削減施策について(第1報)

 1982年以来, 春夏冬の毎期発売されてきた「青春18きっぷ」(以下, 「本件切符」という.)について, 今期の発売を行わない旨の情報がインターネット上で流布していることは既に皆さんもご承知のところですが, その理由仔細については周知がないかと思料いたします.

 広域に通用する鉄道きっぷというものは, たとえJR線内のみに通用する券種であってもJR各社や私鉄各社, 旅行会社等各々調整のうえで発売から運用までなされるものですから, 一社がやめたいと言ってもやめられるものではありませんし, 一社がやめたくないと言っても同じです.

 本件切符が長きに渡り存続できた理由の究極はこれに尽きますし, 廃止に至る理由も同様です.

 しかしながら, 廃止の意思決定に至るにはおおむね各社共通のやめたい理由というものもあるわけです.

 もともと, 本件切符をはじめこれらの企画券は通勤通学需要が弱まる鉄道閑散期にも一定の旅客需要を確保したいという目的で発売された経緯があるとされていますが, 鉄道の高速化と可処分所得の向上に伴い, いわゆる帰省需要が衰退することになりました.

 そのような中で残ったのがいわゆる「鉄道オタク」などとされる交通弱者層です. 彼らは鉄道に乗ることだけを目的とし, 一般的に無所得あるいは低所得にとどまるため, JR地域支社および地方自治体のインフラストラクチャへのフリーライドという問題が生じました.

 要は「カネを落とさないけれどインフラだけは利用する」という状況が毎期生じ, さらにはそのような層には反社会的な傾向も強くみられ, 各関係者に大きな疲弊をもたらしたわけです.

 こうした問題は本件切符の発売額を実質的なコストを再算定したうえで改定すれば済む話にも思えますが, そのような施策は, 苦情等顧客対応コストを生むことが想定され, 選択することができない状態でした.

 すなわち, 値上げは単純な物価比例・相関方式とし, 現状を維持するというのが局所最適になってしまったというわけです.

 そうしたなか, JR各社の職員大量定年問題や国の政策による労務コストの高騰といった問題が浮上し, いよいよ釜の蓋が開いてしまったというのが今回の経緯のようです.

 数字の話をすると, 本件切符は券面あたり12050円で1人日あたり2410円ですから, 高輪ゲートウェイ駅から東田子の浦駅に相当する130ないし140kmが, 上限運賃(鉄道運賃は規制料金ではありません)制度のもとに適当と判断された片道運賃相当の距離となります. 

すなわち, 1券面の発売で得られる利益は, 60%のディスカウントがかけられているとして480ないし500円, 50%のディスカウントだと仮定しても600円前後となり, 1券面(5日間)あたり20人・分の「鉄道オタク」トラブルが生じれば赤字となります. 

 電車が止まればそれどころではないですし, 臨時列車を出せば数十万円の赤字となります. 

 通常の旅客は, 高田馬場の私大生ですら, これほどのトラブルを発生させることはありません.

 これまで, 公共交通機関のコストを低廉に維持するためには, 投資設備の需要量を平日・土休日を問わず一定にする必要があると考えられてきましたが, 少子化と先に述べた大量退職も相まっていよいよ人手不足が深刻化するなかで, 鉄道各社はダイヤの間引きを検討せざるを得ない状況になってきました.

 すなわち,  繁忙期と閑散期の輸送量の均衡を保つメリットが失われつつあるということです.

 そうなると, 土休日や閑散期にトラブルを起こし拘束時間を発生させる旅客はいよいよ疫病神のごとき存在となるわけで, 本件切符の発売を継続する積極的な理由もなくなってくるわけです.

 山手線という日本屈指の利益率を誇るJR東日本ですら雀の涙程度の営業利益しか出ないばかりか, 従業員の退職の動機ともなり得る「鉄道オタク」案件を発生させる本件切符などもってのほかです.


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