本件では,被告人の恐喝について,「賭博を継続すれば賭博の相手である部落の連中は所持金を捲きあげられ,直ちに家族の生活に影響するものと考え,この部落民の財産に対する現在の危難を避けるためには,賭博を中止させると共に勝者のかち得た金員を敗者に返還させる以外に方法はない」として,緊急避難(37条1項本文)の主張がなされている。
結論としては,緊急避難に該当しないという判断がなされているが,その理由は明らかでない。もっとも,賭博には,暴利行為や究極的には強盗に類似するように,理不尽に金銭を収奪する側面があるといえども,その結果を積極的に認容する双方合意のもとで開帳されているという前提に鑑みれば,判例のいうところ「現在の財産に対する危難が存するものとは断じ得ない」の趣旨も理解できるところであろう。
すなわち,現在の危難がないのに緊急避難もクソもないというところである。
-参考-
緊急避難:現在の危難を避止する行為について違法性を阻却する規定
要件は以下の通り。
①生命身体財産自由(自他を問わない)に対する現在の危難(差し迫った危難)の存在。
②避難の意思(危険を免れる意思,防衛の意思ともいう)。
③やむを得ずに行ったこと(すぐそこに警察官がいたような場合には認められない)。
④避難により与えた害が,被る可能性のあった害の程度を超えないこと。
特に,③は補充性の原則といい,④は法益権衡の原則という。
恐喝罪
相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行あるいは脅迫をもって,財物を交付させる罪。結果的加重犯として強盗罪(236条1項)がある(抽象的事実の錯誤の問題)。