2021年7月18日日曜日

小学生のためのせいぶつがく(致死量のおはなし)

デマを打ち消そうとしてデマを流す人々が発生しているようです.

いずれも,致死量の概念をよく理解せず,誤った数値を引っ張ってきて,それを元に計算してしまったのだと思いますが,良いことではありません.


しかも,後者については「10年以上白衣着て生きてる。」などとプロフィール(Biography)に記入している人物によるもので(熟練のコスプレイヤーなのかもしれませんが),パンピーのみなさんの御理解はこんなものなのかという御気持になってしまいました.

批判するのはこのあたりにしておいて,致死量について学びましょう.

致死量とは,ある物質を,ある生物に投与した際,体重当たりどの程度の量を投与すると,生物(生命)としての活動が不可逆的に停止(=死亡)するか...という概念です.

ただし, 「砂利3kgを体重60kgの人間に食べさせたら死んだから砂利の致死量は...」「密閉した部屋に窒素ガスを充満させたら...」などというのは適切でないことに注意すべきです. あくまで, 外部から導入された物質が,体内の物質と反応したり,反応を促進したことによる結果のみに注視してください. 

現代において,人間を使った実験はなかなか難しく,仮に何らかの事件事故の副産物として,たまたま「人間を使った実験」ができたとしても,人間の個体差が問題になります.

そこで,ウサギさんやドブネズミさん,ハツカネズミさん, アカゲザルさん...を使い,その群が,一定時間以内に,何%死んだか判断することになります. 例えば,ハツカネズミさん100匹を実験に使うとして,それぞれのハツカネズミさんに「トラツリマブ」という薬品を体重1kgあたり12ng投与したところ,一定時間内に半数(50%)のハツカネズミさんが死亡したとします. この場合,ハツカネズミにおけるトラツリマブのLD₅₀は12ng/kgである...といいます.

※かなり単純化した話で,実際には結構難しい話です. なお, 有効数字とかはテキトーにやってます.

もっとも,致死量は,どこから体内に入れるかによって,かなり大きく変動します.

例えば, 食塩(主成分は塩化ナトリウム)は,ハツカネズミさんを使った実験によれば, 経口(食べるか飲むか)でのLD₅₀が4.0g/kgなので,体重60kgであれば240gくらいが半数致死量ですが,静脈(血管)に入った場合,LD₅₀が0.65g/kgです. すなわち, 食塩を溶かした液体を注射した場合には, 体重60kgであれば39gくらいが半数致死量になるということです. 

今話題の塩化カリウムは,ドブネズミさんを使った実験によれば,経口でのLD₅₀が2.43g/kgですが,静脈では0.039g/kgです. 体重60kgで考えると, 経口なら145.8gですが, 静脈だとたった2.34gです.

概ねハツカネズミ(やその他の実験動物)における致死量は,ヒトでもそこまで変わることがない(そこまで変わることがないとは言ってない)ため,それなりに信頼できる値ですが,パンピーの手にわたる場合には,念のために100倍ないし1000倍の安全係数を乗じた上(つまり致死量の1/100ないし1/1000に薄めたものしか流通させない),流通させることもあります. 塩化カリウムなどはわざわざ注射するような人もいないでしょうし,静脈に注射した時の安全性など気にする必要はないため, 減塩食品なんかによく入っています.

※積極的な安楽死のために塩化カリウムが使用された,東海大学安楽死事件(横浜地裁平成7年3月28日)では,「塩化カリウム製剤(商品名「KCL」注射液)の1アンプル20mLを,希釈することなく患者の左腕に静脈注射」したことにより,既に衰弱していたとはいえ心停止に至ったことから,日本周辺の民族における塩化カリウムの致死量基準となりそうです. 裁判例から具体的な製剤の名称が特定できませんでしたが,察するに20mLあたり3gの塩化カリウムが含まれているように思われます.

いずれにせよ,この程度の話は小学生でも知っているはずですから,お医者さんごっこをするなら知っていてほしいですね.

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