一部のウェブサイトでは,外交関係に関するウィーン条約36条2項が,外交行のうに対する検査免除の根拠だとしているようですが,これは誤りです.
外交行のうとは「外交使節団の通信のため,外部から識別し得る記号が付され,外交上の書類又は公の使用のための物品の輸送に用いられる包み」であって,これは,外交関係に関するウィーン条約27条以下に規定された,使節団の通信のために使用される外交封印袋をいいます. もっとも,多くの国が,テロリストもしくは政治犯の暗殺のための物資を外交行のうによって運搬していることは公知の事実です.
クアラルンプールにおいて,金正男が暗殺された事件では,神経剤(VXガス等)の運搬に,外交行のうが用いられたことが明らか(その性質上断言することはDPRKが民主化して情報を公開でもしない限り不可能でしょうが)になりました. また,各国の諜報機関に所属するケースオフィサー(工作実行職員)は,しばしばテロリスト暗殺のための武器や金銭を外交行のうに入れて堂々と持ち込んでいるようです.
さて,日本では,外交行のうがどのように運用されているのでしょうか?
これについては,あまり公にはなっていませんが,あまり派手な非正規作戦を実施するような国家ではないため,基本的には本来の目的にとどまるものと思われます.
2012年に刑期が満了した,元衆議院議員の鈴木宗男氏は,2006年に「外交行嚢等に関する質問主意書」というものを出しています.
主意書内容と答弁書を統合したものが次の通りです.
霞ヶ関の言葉で書かれているので,必要に応じて,()内に翻訳を附しました.
質問第一一四号,答弁第一一四号.
外交伝書使(クーリエ)の定義如何。
→外交伝書使とは、一般に、外交使節団の通信のため、自国から自己の身分及び外交封印袋である包みの数を示す公文書の交付を受けて、外交封印袋を輸送する者をいう。
(単なる定義)
外交行嚢はいかなる目的のために用いられるか。
→外交行嚢とは、一般に、外交使節団の通信のため、外部から識別し得る記号が付され、外交上の書類又は公の使用のための物品の輸送に用いられる包みをいう。
(単なる定義)
外交行嚢で在外公館が用いる公金が運搬される事例があるか。
→御指摘の事例はある。
(あるけど詳しくは教えないという意味)
外交行嚢で外務省職員が私的に用いる金員や有価証券が運搬される事例があるか。
→外務省において、御指摘の事例は確認されていない。
(あったとしても私的な使用については問題視しないという意味)
平成元年四月一日以後、外交行嚢を紛失した事例があるか。事例がある場合、その年月を明らかにされたい。
平成元年四月一日以後、外交行嚢が盗難にあった事例があるか。事例がある場合、その年月を明らかにされたい。
→外務省において、御指摘の期間に、外交伝書使が外交行嚢を紛失し、又は盗まれた事例は確認されてい一ない。また、外務省において、御指摘の期間に、外交伝書使によらずに輸送される外交行嚢の所在が不明になった事例はあるが、年月に関するお尋ねについては、これらの事例に関する詳細な調査を行う必要があるため、お答えすることは困難である。
(失くしたり盗まれたりはしてないが,業者がなくすことはある. 詳しくは教えない.)
とまあこんな感じです.
業者が外交行のうを失くしたというのは,おそらく盗まれたということでしょう.
南アメリカやアフリカ,東南アジアなんかでは,どうやら外交行のうであってもお構いなしに盗む輩がいるらしいですね.
ちなみに,諜報機関の手の者が盗むということはまずありません.
そういうリスクのある外交行のうは,必ず,持ち込み手荷物として輸送します.
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