◆事実関係◆
2016年6月15日に報道により明らかとなった事案である. 具体的なところ, 京都府立x高校の女子生徒の妊娠が発覚し, これについて高校側は1月に体育科目である持久走に際し女子生徒に実際に実技を行うよう要求し, レポート等代替措置は認めなかったものである.
また, 生徒が通級での継続的な学業を望んでいたにも関わらず「休学届」を家庭に送付していた事実が明らかとなった.
そのほか当該校副校長が「妊娠すると子育てに専念すべきで, 卒業するというのは甘い.」などと発言したことも明らかとなっている.
加えて, "病気やけがの場合は「特別な事情」として配慮するが、「全日制では生徒の妊娠を想定しておらず、妊娠を特別な事情とは考えていない」"ともしている.
◆議論◆
本事案について教育委員会の釈明に若干の矛盾がみられるほか事実に特段の争いはなく,
よって
①生徒の「妊娠」行為に反社会性があったか否か
②生徒の「妊娠」行為は以後の学業に支障をもたらすと予期できたか否か
③前1号2号につき是認された場合に学校側に体育科目の代替措置をとる責任があるか否か
あたりが論点となるものである.
第1号については民法731条の通り自由意志による婚姻が可能な年齢であることから反社会性は否定される. また, 妊娠の背景行為が18歳未満であった場合については, 京都府の健全育成条例が問題となるが, これは「淫行」につき「金品その他財産上の利益または職務」を交付する性格があったときは反社会性があるということができる. これは売春防止法からも同様のことが言える.
しかしながら本案件においてそういった事実はないため, 適法でありかつ反社会的でないと言える.
第2号については本人がどの程度「妊娠」による社会的不利益を予期できたかが問われる.ここは同校の学力水準から推察するほかなかろう. ひとつ申し上げておくと, 仮に予期可能であったとの結論が得られたとして, 本人に対して体育科目の代替措置を講ずることを認めないことが直ちに是認されるわけではない. さて, 同校について簡単に検索をしたところ, 偏差値43とあった. 残念ながら偏差値50以下の学校出身の知人がいないため, 推察は困難である. よってこれは不明としておく.
第3号については前2号の結論が「不明」であったため, A.予期可能であった場合 B.予期不可能であった場合についてそれぞれ検討を行う.
A. 予期可能であった場合に生徒が当該科目の単位修得という利益を受けないことを受任するまでの理由があるかについてが問題となる. このため, 他の事例についてどういった措置がとられているか知る必要がある.
たとえば, 不登校生徒に対する文部科学省の考え方は「柔軟な対応」であり, 具体的には出席していない者についても代替の措置を講ずることによって出席したとみなす...といったものがある.
不登校については単なる仮病(仮病の背景に何があるか定かではないが)から経済的事情まで各種多岐にわたるが, 一様にこの対応である.
また, 傷病者についても同様の措置がとられることや, 実務上体調不良によるいわゆる「見学」につき実技の代替措置(レポート等課題)によって出席ならびに評価を行っていることから本事案についても当然に代替措置が講じられることが相当である.
B. 予期不可能であった場合について, 現実的な仮定とは言い難いものの, その場合には教育の目的からして学校側が生徒指導を行った上, Aと同様の考えを適用すべきであろう.
[参照 : 厚生白書(昭和33年度版)]
なお, 反社会性行為があった場合には学校教育法施行規則にて3項一・四号につき校長に懲戒権がある. ただし, これは謹慎あるいは停学もしくは退学等を行う権限を定めるものであって, 特定科目の受講を阻害する行為や, まして家庭に「休学届」を送付するような行為を認めるものではない.
あくまでも反社会性行為に対する懲戒権である. 性行為は「公衆の面前」で行わないかぎり反社会性ないし公序良俗に反するものではないため, あたらない.
◆結論◆
本事案には尋常でない人権侵害性があるものと考えられる.
迅速かつ確実に是正措置を講ずるべき性質の事案であることに異論はない.
生徒側に責任はなく, 本事案につき, おおよその責任は学校側にある.
本事案は通例通り後に文科省から通達が下り「十分に配慮すべき」とのことで決着するだろう.
◆その他◆
twitter上で「義務教育でないのだから自らの行為に起因したことにつき自らその不利益を受任すべき」といった言説がみられるが, これは極めて不見識であると言わざるを得ない.
まず, 義務教育とは国家が保護者に対して, 子息を小学校6年間ならびに中学校3年間の教育課程において勉学を受けさせる義務を定めるものであって, 生徒自身の作為不作為とは一切無関係のものである. 当然ながら義務教育と義務教育後の中等後期教育ならびに高等教育について生徒が努力すべき水準に差異はない. 私の母校は中高一貫の私立であり, 制服や規則こそないものの「学業劣等のものは退学とする」旨記載があった. 本来のところ義務教育であろうとなかろうと生徒に要求される勉学・学習態度は同等なのである.
◆総評◆
京都府全体に同様の問題があるとまでは認められないものの, 考え方に天暦6年8月あたりで停止していると言わざるを得ないところがある. さすが京都である.
2016.06.18 @3x92
(・x・) 役所の文章っぽくなり申し訳NASA
しかしながら事件を緻密かつ私情を挟まずに解析するには...この道しかないってはっきりわかんだね.
厚生白書を挙げた理由は察してどうぞ.